「桜花くん!!大変なの!!」
その日、何時もどおり他校の女生徒と戯れる桜花のもとに、
取り巻きの女子の一人が駆け込んだ。
「ん?どうしたんじゃ?」
息せき切ってきた女生徒は、桜花クラブ(?)の常連の一人だった。
普段ははしゃぎながらも、他の女子のまとめ役になるなど、落ち着いた一面もある。
その彼女が、このようにあわてるとは。
桜花はただならぬことがあったのだと感じ、すぐに聞いた。
「エリが…エリが、男に絡まれて…っ。」
エリ、というのも桜花の取り巻きの一人。
それが男に絡まれている。
そこまで聞いて自他共に認めるフェミニストである桜花が、黙っているわけはなかった。
「どっちじゃ?!」
豪快に立ち上がる桜花に、少女はすぐに案内した。
「こっち…北門の外!!」
「よしわかった。すぐに行く!」
桜花は巨体を振るい、急いだ。
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「がはあっ!!」
「何だ?まだやるっての?」
「い…いや…。」
「あっ!」
「ほ…ぅ?」
北門にたどりついた桜花の目にうつったのは、
片腕で大の男との襟を締め上げる女子高生の姿だった。
その横には、特に怪我もない様子のエリがいた。
しかも既に勝負はついているようだ。
彼女の周りには4人ほどの男が死屍累々といった風体で転がっていた。
「ごほっ…。」
そして彼女が締め上げているのは最後の一人。
それももう観念したようで、彼女は襟を放す。
離したとたん、男はその場にくずおれた。
「ごほっごほっ…。」
咳き込む男を、彼女は見下ろして言った。
「これに懲りて、嫌がる女の子を無理矢理なんて真似は止めとくんだな。
今度見かけたら容赦しないぞ?_」
「はっはい!」
迫力存分の彼女の姿に、男は完全に戦意喪失し、そのまま仲間(だろう)をおいて走り去っていった。
「おい、これ連れて帰れー…って行っちゃったよ。もう。」
その姿を桜花はいたく気に入り、声を上げて笑った。
「がっはっはっは!勇ましいのう!」
「え?!」
まだ仲間がいたのかと一瞬警戒した表情で、少女は振り向いた。
短くはねた髪が揺れ、少女の顔立ちが桜花の視界に現れた。
大きな茶色い瞳が印象的で、キリっとした眉は彼女の凛とした性格を顕著にし。
先ほど見せた運動能力からは想像できない白い肌が、ほんのりと紅い唇を際立たせていた。
桜花は一目で魅入られた。
「エリっ、大丈夫?!」
「シホ〜!うん、大丈夫!!この子が助けてくれたから!!」
二人の少女が無事を喜びあう声で、桜花は意識を取り戻した。
「…すまんな、礼が遅れたようじゃ。
こいつを助けてくれてありがとうな。」
「桜花くん、この子すっごく強かったの〜〜!!
とくに蹴りがカッコよかった〜〜vこんな強い女の子って私初めて!!
本当にありがとう!!」
助けられたエリも興奮して彼女に礼を言った。
すると、彼女は照れたように笑って、言った。
「ううん、無事でよかった。」
そしてふと、彼女は何かに気づいたように桜花に目を向けた。
「あれ?…あの、オウカ、さん?野球部の人ですよね。キャッチャーの。」
どうやら彼女は自分が華武高校のユニフォームを着ていることに気づいたようだ。
すると自分の代わりに、エリが答えた。
「そうなの!桜花くんはここの一軍キャッチャーなんだよ。
華武のキャプテンさんの球を投げられるのは、桜花くんだけなんだから!」
「は、はあ…。」
「エリってば、まくし立てちゃって。」
シホ、という桜花を呼びに来た女生徒も苦笑する。
どこか和やかな空気の中。
彼女は言った。
「あの…今日これから練習試合なんじゃ…?」
「?なんで知っておるんじゃ?」
そう、今日は練習試合のため、日曜日の学校に赴いたのだ。
もっともまだ始まるまで時間があるため、取り巻きの女子とのほほん茶をしばいていたのだが…。
なぜそれを彼女が?
「ああ、それは…。」
「さ〜〜るのっ!こんなとこにいたのかよ〜〜!オレ、探しちゃったぜ?」
どかっと派手な音を立てて、小さな影が彼女の背中に飛びついた。
「うわっ!ユタ…!」
「よかった〜始まる前に見つかって。
一緒に見ようぜ〜〜華武とセブンブリッジの試合〜〜v」
その少年は、桜花には見覚えがあった。
黒撰高校の4番で、キャッチャーの。
「ぬしゃあ、村中の弟のほうか?」
「え?うわ、華武のキャッチャーじゃねえか!
近くで見るとでっけーな〜。」
「ぬしも近くで見ると小さいのう。
この女子とは知り合いなんか?」
「あれ?さるののこと知らねえのか?」
「ユタ〜〜いい加減どきな。重いんだよ!」
小さいとはいえ男子高校生一人にのっかかられて、女子の身ではつらかったのか。
彼女は由太郎を背からおろした。
「は〜。重かった。」
「あっはっは悪い悪い!でもさるのも鍛え方たんねえぞ?」
「…ユタ、わたしが女子なの覚えてる?」
「そうよ〜〜女のコに乱暴な真似はいけないわねえ、ボウヤ?」
「わわわっ?!」
「あ〜〜!セブンブリッジの!!」
本日の練習試合の相手、セブンブリッジ学院のキャッチャーが現れた。
彼女の身体を後ろから抱き寄せたのだ。
「ずっるいな〜いきなりさるの持ってって〜〜。」
「…ぬしも男じゃのう?」
桜花は混乱しつつ。
何度か顔をあわせている中宮紅印に言った。
少々以上の皮肉をこめて、だが。
「ふふっ、この子はアタシもお気に入りなのよv
自分がオトコだって思うくらいにねv」
抱き寄せながらその細い指がやや特殊な意志を持って彼女の身体に触れる。
「ちょ、ちょっと姐さん?」
「うふふ、その反応の仕方がまた可愛いのよねv」
「こんな昼間から路上で、あまり紳士的ではありませんね。」
「まさか男好きで有名な中宮氏までとはね。データが足りていなかったな。」
次にやや怒りのこもった声で現れたのは、なんと明嬢高校の御内裏と、武軍装線高校の妙高。
アイドルの出現に、女生徒二人は流石に驚いた。
「え?え?紫SHIKIBUの?」
「うわ、はじめて見た!!思ったよりイケてない?」
「ああら、アイドル君と兵隊君もご一緒なの?」
「今日の試合は埼玉で最高の好カードですからね。
私も野球部員としては仕事を抜いて見に来ますよ。」
「これほど重要なデータを取れる試合に、見に来ない手はないからね。」
「それに…。」
「『彼女に会えるかも』…でしょ?」
「はあ?!」
紅印の腕の中にいる彼女と一緒に、桜花も驚いていた。
この女子は一体何者なのだ。
これほど人を集めるとは…。
何より自分は彼女の名前すら知らない。
自分の出遅れを、あからさまに感じずにいられなかった。
「さ、中宮さん。早く彼女を放してください。」
「いや〜よ。いくら美少年の頼みでもそれは聞けないわ!」
「我がままだね、3年の癖に。」
「じゃあおれは1年だぞ!」
「おい、ぬしら…。」
パン
突然、鋭い音が響いた。
振り向くと、眼鏡をかけた少年が手をたたいたらしい。
となりには殺気立った長身で色の黒い美少年が立っている。
桜花にもその二人は見覚えがあった。
確か、十二支高校の…。
「はい、そこまでにしてもらいましょうか?」
「・・・・・・。」
「い、犬飼!たっつん!!」
「あっ。」
彼女は、彼らの姿を見たとたん紅印の手をふりほどいた。
そしてそのまま。
色黒の少年の腕に飛び込んでいった。
「無事か?猿。」
「うん、大丈夫…。」
少年…犬飼はそのまま彼女の身体を抱きしめる。
「やだ、もう来ちゃったの辰羅川クン?」
「もう来たのじゃないですよ、中宮さん。
うちの大事なマネージャーに不埒な行いはやめてもらいたいですね。」
「え〜〜たまにはいいじゃん、犬飼〜〜。」
「ダメだ。こいつはオレのだ。」
「やれやれ、独占欲が強いですね。」
「データ以上だよ、これは。」
「…って、何じゃこれは。」
呆然とする桜花の肩に、紅印がぽん、と手を置いた。
「桜花クン、あなたも猿野ちゃんに心奪われたみたいだけど
彼女を奪うのは難しそうなのよ。
でもあなたも、頑張るのかしら?」
「頑張ってもこいつはオレのだ。」
「い、犬飼…。」
紅印の言葉を聞いてたのか、猿野、という少女を抱きしめたまま犬飼はにらみをきかせた。
抱きしめられた猿野も…まんざらではない。
というか、かなり嬉しそうだ。
先ほど男どもをけちらした勇ましい少女は、いま彼の前で確かに少女に戻っている。
その様子は…不思議と違和感がなく見えた。
そして、犬飼の瞳。
その目には大事なものを守る力がありありと現れていた。
「難しそうじゃな…。」
「そうなのよ。じゃああきらめる?」
だが。
「…それも無理そうじゃな。」
「きゃっ、桜花くんも宣戦布告?!」
「うっわあ、私応援する!!
桜花クンが勝ったら、猿野さんと一緒にいれるわねv」
「…止めないんですか、あなた方あの人の取り巻きでは?」
「うん、でもそういう意味で桜花くんにくっついてるわけじゃないし。」
「桜花くん、すごくいい人だもんね〜。
お兄ちゃんて?感じ!」
「…そうなんですか…。」
辰羅川は、親友のおっかけとはだいぶ趣のちがう取り巻きに期待を持つのはやめることにした。
「それにしても…。」
私は諦めが良すぎるんでしょうかね?
辰羅川の小さな呟きは、幸い誰の耳にも入らなかったようだ。
そして練習試合が始まるまで。
この小競り合いは続くことになったようだ。
猿野天国・15歳。
十二支高校野球部 女子マネージャー。
彼氏もち、が、親衛隊員・急増中。
親衛隊は男子も女子も入り乱れているとの噂がまことしやかにささやかれている。
噂だけではないけれどね。
end
ピッチャー・キラーに続く(話は続いてませんが)ポジション別総受け話…かな?
あまり意味はないんですが(笑)
あとでとっつけた感じの犬猿になりましたし、女子な意味あんまりなくなってますね…。
私はとても楽しんで書くことができたんですが…。
こんなんでよろしかったでしょうか…。
羽鳥さま、大変お待たせして申し訳ありませんでした…!
素敵なリクエスト、ありがとうございました!
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